
史跡八橋かきつばた園(愛知県知立市・無量壽寺)に、在原業平像と有名な歌碑が建っていました。
- から衣 着つつなれにし つましあれば
 はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ
意味:唐衣を着慣れるように慣れ親しんだ妻が都にいるので、あぁこんな所まではるばる来てしまったんだなぁと、しみじみ旅の空を淋しく思う
 在原業平が主人公のモデルと言われる、伊勢物語の第九段「東下り」に採り入れられた和歌です。
 業平作として、古今和歌集にも撰ばれています。
 このページには、かきつばたの和歌に散りばめられた数々の技巧(テクニック)をまとめておきますね。
折句(おりく)

- からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ
 各句の最初の文字をつなげると「かきつばた」になります。
 句の初めに五音の言葉の一音ずつを置いて読む「折句」という言葉遊びです。
 今でいう、ラテ欄(テレビ欄)の縦読みのようですね。
掛詞(かけことば)
| きつつ | 着つつ、来つつ | 
| なれにし | 着なれる、慣れ親しむ | 
| つま | 褄、妻 | 
| はるばる | 張る張る、遥々 | 
| きぬる | 着ぬる、来ぬる | 
 歌の中に「き(着/来)つつ」など、同音異義語を利用して、1つの言葉に二重の意味を持たせる技法が散りばめられています。「掛詞」というテクニックです。
 これにより、限られた文字数の中でより多くの情報を伝えることが可能になっています。
縁語(えんご)

 Corpse Reviver(2009)/Adapted./CC BY-SA 3.0
- 唐衣 着つつ 慣れにし 褄しあれば
 張る張る 着ぬる 旅をしぞ思ふ
 掛詞の1つ1つに注目すると、衣服に関係するワードがたくさん用いられているのが分かります。
 一首の中心になる言葉の関連語を、歌の中に忍ばせる「縁語」という技法です。
 全体の調子を整えて連想を絡ませ、表現効果を高めています。
 この歌の中心語は「唐衣」です。
枕詞と序詞
「唐衣」は「着る」などにかかる「枕詞」。
 「唐衣着つつ」は「なれ」を導く「序詞」です。
さいごに

最後までお読みいただきありがとうございます。
 今回紹介した和歌は、在原業平が東国への旅の道すがら、三河国八橋でカキツバタの美しさに惹かれて詠んだとされています。
 都に残してきた妻への思いと、たくさんの技巧が両立しているステキな和歌でした。
 ぼく(なごやっくす)
ぼく(なごやっくす) かきつばた(杜若)は知立市の花、そして愛知県の花になっています!
参考文献など
- 史跡八橋かきつばた園(愛知県知立市)案内板
- ビギナーズ・クラシックス 伊勢物語(坂口由美子,角川ソフィア文庫,2007)
- 知識ゼロからの短歌入門(佐佐木幸綱,幻冬舎,2020)
- からころも|weblio古語辞典
- 参拝のしおり「三河国八橋 八橋山 無量壽寺」
- かきつばたの名勝地 三河国八橋(八橋旧蹟保存会,2021)






